大人が読み返したい児童書

ともかく貧乏。
それ以外の形容詞が思いつかないほど貧乏な少年チャーリーに、チョコレート工場の見学ができる券が当たった。
世界一の、そして謎に包まれたワンカ工場。そして見学後には、一生分のお菓子のお土産。いつもお腹を空かせているチョコレート好きの少年には、これ以上はないという幸運だ。

ワンカ工場の秘密はもちろん、ワンカさんのキャラが最高。それから、ほとんど寝たきりだったはずなのに、工場見学のつきそいが出来るとなると、急にベッドから飛び出す現金な(?)ジョーじいさんも楽しい。わがままで自分勝手な見学者達と、親バカ達に対する皮肉もたっぷり。

児童書だけれど、大人が読んでも十分楽しめる。この「チョコレート工場の秘密」をはじめ、ロアルド・ダールの作品が新訳で登場するロアルド・ダールコレクションも楽しみだ。

| | Comments (0) | TrackBack (6)

難しいお年頃のオヤジへ

先日の流星ワゴンと同じ重松清の同じ系統の短編集。こっちの方が先に書かれていて、直木賞も受賞している。

同じ系統というのは、主人公の年齢や、テーマ。こちらは、ファンタジーな味付けはないので、「不思議な出来事」は起こらない。40歳前後に差し掛かった主人公が、妻や子供、そして自分の親との関係を見つめ直すきっかけとなるエピソードが、それぞれ描かれている。

40歳前後。難しいお年頃です。ここでは、いずれも子供を持つ父親が主人公だけど、立場や性別が違ってもある程度は理解できるだろう。

ささいな出来事から、「このままでいいのか」と悩み、苦しみ。けれど、結局は日常を生きていくしかない、「普通の人々」。それでも、この物語の主人公達は沈みっぱなしではない。どの主人公も、どこかで光明を見つけ、もう一度浮上している。何かが目に見えて解決するわけではないけど。なんだろう。それまで生きてきた自分、これから生きていく自分。そういったものに、ちょっとだけ自信が持てるようになっているからだろうか?

同年代の人に、特にお勧めです。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

久々のお気に入り作家登場か?

ロマンス小説の七日間
この本は、気楽に読めそうだと思って、何となく購入。しばらく寝かせていた。
先日発掘(!?)されて、読み始めて…。

えっ? なに? これって、現代物じゃなかったけ?
いきなりアリエノールっちゅうお姫様やら、ウォリックっちゅう中世の騎士やらが出てきたのだ。

種を明かせば、ヒロインがロマンス小説の翻訳者という設定。そして彼女の現実とリンクして、翻訳内容がとんでもなくぶっとんでくる。というお話だった。

ロマンス小説ってのは、あまり知識がないのだけど、いわゆるハーレクインだよね。美しい男女がいろんな困難を乗り越えて結ばれるという、予定調和な物語。バリエーションはあれど、パターンが決まっているので、愛好者も多く、安心して読めるという…。と書くと、馬鹿にしてるようだけど、実は読むとはまりそうな予感。決して嫌いな世界ではないのでだけど、敢えて読むほどでもなかっただけです。

二十八歳のヒロイン。半同棲中のマイペース(いきなり会社を辞めて来ちゃう)な恋人。居酒屋で顔を合わせる、いかにも今風な、言動に脈略のない女子大生(?)。など、登場人物はありがちっちゃあ、ありがち。なんだけど、ロマンス小説と絡めることで、妙におかしくなっている。そしてこのロマンス小説、翻訳者であるヒロインの捏造により、どんどんとんでもない話になっていくけど、これはこれで面白い。一冊で二種類の物語が楽しめるというお得な本なのである。

それと、うまく書けないけど、この小説の根底にある「真面目」な思考に好感が持てる。この作者の三浦しをんさん。初めて読んだのだけど、他の本も読んでみたいと思わせられる、そんな雰囲気があった。

| | Comments (0) | TrackBack (3)

大人が信用できない世界

オレンジ党と黒い釜は、この日書いた光車よ、まわれ!と同じ天沢退二郎の作品。同様に復刊ドットコムで復刊された児童書でもある。オレンジ党シリーズ、また三つの魔法シリーズなどと呼ばれ、その第一作である。

作品の雰囲気、もしくは世界観とでもいうようなものは光車よ、まわれ!にとても似ている。主人公はルミという小学六年生の女の子。父親と二人暮らしで、突然父の故郷である街へ戻ってくる。まず、父とこの街の関係がいわくありげ。そして父親は自身の物思いに囚われており、ルミに対してはおざなりになっている。これ、今時の小説だと、家庭崩壊の物語になりそうだけれど、この当時(1978年発刊)の小学生は偉い。ルミはそんな父を気遣いこそすれ、恨み言一つ言わず、炊事や掃除などの家事をこなしている。
もっとも、ルミと同じ年のはずの自分自身が、当時それほどしっかりしていた記憶はないが……。

さて、転校した先の小学校で李エルザ(すごい名前だ)を中心とするグループの仲間となり、「とき老人」にそれまでの危険と魔法との関係を教えられる。というあたりは、「光車…」風。この両方の小説とも「怖い」のは、本来味方であるはずの肉親や先生が無関心、あるいは敵である点。しかも、「危険」というのがファンタジーにありがちな異世界の話ではなく、現実での危険である。「光車…」では、実際に死人も出ている。小学生の時に読んで、今でも強烈に覚えているのはそのあたりが原因なのかも。同じように感じた人が多いから、復刊ドットコムで投票が集まったのかもしれない。

ともかく、子供だましではない世界観。そして、小説としても前作より洗練された。

三部作の第一弾であり、オレンジ党とはそもそも何かをはじめこの作品では多くの謎を残したままだが、次を読むのが楽しみになる物語だ。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

愛すべき男性誌

この実録 男性誌探訪は、珍しく文庫化される前に買った本。いや、よく考えると大ファンってわけでもないのに、斎藤美奈子の単行本は意外とたくさん持っている。斎藤さんは人気作家なので、待ってれば文庫化される可能性は高いのだが、評論の場合は小説よりも一層旬のうちに読みたいものが多いからだ。

大ファンではないと書いたけど、結構好きではある。多分書評というジャンルなんだけれど、そこからエンターテインメントに発展させている。基本的に客観的。なおかつ断定的。実を言えば自分が詳しいジャンルだったりすると「えっ?」と思うことがないではないのだけど、間違いというほどではない。それに、これだけ断言されると、そうなのか、と納得してしまう。客観的と書いたが、結局本の選択から読み方まで、ほんとはとても個人的。けれど、そういった「自分は…」的な語りは極力排除して、一見客観的に見えるように評論するのが、彼女の芸風だ。で、見方が意地悪、皮肉&ユーモアたっぷり。舌鋒鋭く、売れてる本を斬っている。ただし、最近ちょっとやり過ぎというか、そういう芸風が定着してしまったための無理が目立つ気もしないでもないが。

いつも凄いと思うのは、毎回取り上げる本がばらばらなのに、それらについて非常に詳しく紹介してあること。専門的なものもあるのに、わかりやすい言葉で要約されている。さらに、その本が出版された背景などについても詳しく書かれている。さして長い文章ではないのに、一体どれだけの手間をかけて調べているのだろうと、感心するやら呆れるやら。

さて、この本はタイトル通り様々な男性誌をいろんな角度から斬りまくった、AERAの連載をまとめたもの。例によって、ちょっと意地悪な視点で、雑誌をからかっている。これがまた、いろいろなジャンルがあり。多分斎藤美奈子さん、ポストを愛読してるとか、釣りが趣味とか、実は鉄ちゃん、てなことは一切ないと思うのだが、まるでこれらの雑誌を昔から知ってるかのように論じている。そして、痛快。例えばLEONは「オヤジ、モテたい。以上終わり」。身も蓋もないけど、確かにそうだしねえ。

しかしこうやって並べて見ると、男性誌って基本的にナルシシズム満載なのかもしれません。自分自身、パソコン雑誌というほとんどが男性読者の雑誌の編集という仕事に就いているので、そういう意味でも興味深かった。

| | Comments (0) | TrackBack (1)

あわあわとした……

センセイの鞄は、結構評判になった本だったと思う。あらすじも割と紹介されていたけれど、三十代後半の女性と七十位の老人の恋ということで、いろいろ引用もされていた。WOWOWで、小泉今日子主演でドラマ化もされている。

と、情報だけは知っていたのだけれど、読んだのは初めて。
確かに評判通り。四十間近、一人で生きていくのに慣れた女性ツキコさんが、高校時代の恩師であるセンセイと偶然出会い、お互い恋心を抱いていく様子が淡々とした日常の中に描かれている。独身の二人故(センセイの妻は出奔の末死亡しているらしい)、目に見える障害はないはずだけれど、年齢や立場などで自分自身の心が自分達を縛ってしまうのは、想像に難くない。また年齢故でしょう、性急に相手を求めるようなこともなく、ツキコさんがどんなにセンセイに恋情を抱こうとも(その逆でも)、表面的にはあくまでも淡々。このまま淡々と終わっても良かったと思うのだけれど、最後で意外な急展開も用意されていて楽しめました。

普通に考えれば、現実感のないお話。実は小説中でも現実感は意識的か無意識的か、極力廃している。まず、センセイのキャラが、いかにもセンセイらしい。多分、大勢の人が想像する高校時代の恩師がデフォルメされた姿。実際はそんな先生などいなかったはずのに…。
「ワタクシは」と話し、いつも背筋を伸ばしていて、きっちりしている。

一方のツキコさんは、三十八で一人で生きているのだから、センセイと過ごす以外の世界もたくさん持っているはずなのに、それはほとんど出てこない。いや、同級生と焼けぼっくいに火がつきそうになったり、母親との会話にいたたまれなくなったり、仕事が忙しかったりはしているのだけど、いずれも「ついで」という感じで出てくる。世界の中心はセンセイと呑む居酒屋。

多分、この現実感のなさが物語の「あり得なさ」に逆にリアリティを与えているのかもしれない。全てツキコさんの夢の中の出来事、とも言えそうなほんとに淡い淡い物語。本文中に何度も出てくる「あわあわとした」という表現がぴったりだ。

最後に。このお話で一番面白かったのは、センセイの「妻だった者」のお話。いやあ、ユニークな人です。

川上弘美、この人の本も確か芥川賞を受賞した蛇を踏むしか読んだことがなかったのだけど、他も読んでみたいと思わせられました。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

“父親”のためのお伽噺

何の前知識もなく、タイトルだけで購入した流星ワゴン

38歳の僕は、最低の現実に疲れ、もう死んでもいいと思っている。
息子は受験に失敗して引きこもり、妻は自分を裏切り外泊することも多い。そして自分自身もリストラされた。折り合いのよくない父親は不治の病で余命幾ばくもない。そんなとき、五年前に死んだ橋本さん親子のワゴンに乗ることになる。このワゴンは、僕を人生の岐路となった「大切な場所」へと連れて行ってくれる。そこで僕はやり直しを試み、自分と同い年の父親と出会うことになる…。
ワゴンの旅が終わるとき、僕は、父親は、そして最低の現実はどうなっているのだろう?

このお話の中心は、それぞれが問題を抱えた三組の父と息子。
父親は、息子のことをもちろん大事に想っている。けれど、それは伝わらない。息子が理解できない。
でも、父親が自分自身と同じ年だったら?

設定としては、あり得ないファンタジーなのだけど、彼らの関係の変化は現実感を持って胸に迫る。多分、父親だったり、息子だったりの経験がある人なら、より理解できるだろうし、感動できるだろう。
どちらでもない自分は、どこか醒めた気持ちで読んでいた部分もある。たとえば数少ない女性の登場人物、僕の妻の美代子さん。んなわけないだろう? もっと何かあるはず。とは思うものの、父と息子の前では夫婦の物語は二の次だ。それが悪いというのではなく、この小説はあくまで父と息子の話。ということ。
最後も、ちょっと甘いなあと思いつつ、こういう希望のある終わり方は嫌いではない。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

ちょっと肩透かし

九州の水郷都市、箭納倉で起きた失踪事件。けれどいずれの失踪者も、しばらく経つと何事もなかったかのように戻ってきており、大きな事件にはならなかった。
しかし、それに疑問を持った元大学教授、その年下の友人の音楽プロデューサー、音楽プロデューサーの後輩でもある元大学教授の娘、この地方の支局に赴任してきた新聞記者が、謎の解明に挑む。
恩田陸月の裏側は、そんな風に始まる。

導入はまだるっこしい。箭納倉のモデルが柳川であることは、割とすぐわかると思うのだけど、それを強調するためか、わざわざ地元出身作家の著作を挙げる「文学しりとり」で遊んでみたり。不必要に回り道をしている感じで、なかなか話に入っていけないのだ。

が、それを通り過ぎると俄然面白くなる。説明的だった登場人物たちも生き生きと動き出すし、話は限りなくホラーで怖くなってくる。読んでる最中は、水の傍で寝られなくなるくらい。

ところが、せっかく盛り上がったのに、結末が、導入とは逆に妙に粗くなっているのだ。

謎を謎のまま残すのはいい。

でも、ここまで暗示が少ないと、読者に結末を委ねたというより、単に結末を書きそびれたようにも見える。スカッと肩透かし食らったので、怖さの余韻も残らなかった。せっかくの「月の裏側」というタイトルも余り生きてないし。

それに、細部が結構いい加減になるのも残念。作者がもうこれを書くのに飽きたのでは? という感じ。例えば車のガソリンがなくなって移動を断念する場面があるが、ガソリンスタンドが使えない理由が全くわからない。そういう本筋とは関係ない謎が積み重なってくると、そっちが気になりだして、話に集中できなくなってしまった。

こう書くと、あまり良くなかったみたいだなあ。
全体としては、怖くて面白かった。ただ途中ですごく引き込まれた分、最後の適当さにちょっとがっかりした、というところ。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

たき火オヤジのらしいSF

椎名誠って、どうなんだろう? つまり、一般的なイメージということだけど。

南の島でたき火してビール呑んで、魚をわしわし食う。というのがまず思い浮かぶ。それから本の雑誌の人。活字中毒で、本に詳しくて。映画など他分野も手がけてたり、自らもメディアに結構出てる。そして最後に、小説家。代表作って何だろう? Amazonで売れてる順に並べると岳物語が来るから、やっぱそれかな。でもそれより、呑んで食ってるエッセイの方が印象深い。

という、あまり小説のイメージはない作者だと思うが、このアド・バードは出た当時、椎名誠初のSFとして話題になった気がする。日本SF大賞受賞作らしい。椎名誠、本の雑誌でもよくSFについて語ってるし、帯の推薦の言葉なんてのもよく見るように思うので、凄く好きなんだろう。

さてこの小説の舞台は、いつどこだかわからないけど、現在の地球でも日本でもない場所。マサルと菊丸という兄弟が、父親探しの旅にでる。鍵になっているのは「広告」。ただし、ほぼ最後までどういう状況なのか、詳しいことは明かされない。というか、最後になっても、結局よくわからないままなことも、多いんだけど。特徴的なのは、謎の攻撃を繰り出す謎の生物達。深刻な状況のはずなんだけど、椎名誠独特の擬音語が駆使されてるので、結構滑稽な映像が思い浮かべられる。モデルになっているであろう動物も想像できて、それが間抜けだったりもするし。この広告が支配する世界と生物達の描写は楽しめる。

話自体は、個人的には可もなく不可もなく、というところ。SFに詳しくないのだけど、所々過去のSFの名作の暗喩のような箇所もあるようで、好きな人はそれも楽しめると思うけど。事実、解説によればブライアン・オールディス地球の長い午後に対するオマージュとある。ただ、椎名誠の他のSF作品を読もうという気にはならなかった。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

萌絵 VS 保呂草

いつ続きが出るんだ! という作家が多い中、コンスタントに作品を発表し続ける森博嗣。おかげで、いいペースで文庫化されています。
もっとも読者としては嬉しいけど、こんなにきっちりした方とはお友達にはなれないだろうな(←向こうがお断りだと思います)。

さて、捩れ屋敷の利鈍は、S&MとVシリーズが交差するお話。一応Vシリーズということで、いつも通り保呂草が後から三人称で書いたという体裁をとっている。でも紅子をはじめ、練無、紫子も出てこない(紅子はちらっと出てくるけど)。
話としては、両シリーズのファンサービスってところ。ルパン対ホームズみたいな感じ(←違います)。元々ドロドロした感情ってものは感じさせない作風ではあるけど、今回のはほんとにゲーム。一応人が死んでるんだけど、かなり放ったらかし。結局動機らしい動機も説明されないし、作中で自ら突っ込んではいるけど、人の死が軽すぎるきらいはあります。

うんと、実はS&MとVシリーズをつなぐ仕掛けがあって、これはそういう意味では重要な作品のはずなんだけど…。
ちょっと前に、偶然その種を読んだしまったのだ。それで純粋に楽しめなかったのが残念。
もっとも、答えを知っていても、作品のどこかに隠されているヒントには気づかなかったのだけど。

では今回の見所は、というと。国枝先生かなあ。国枝先生がこんなに感情を露にして活躍した(国枝先生にしてはってことね)のって初めてじゃあ? 桃子ファンは見逃せません。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

«ヤマト風味なガンダム